賃上げの原資は、人件費を無理に削って捻出するものではなく、設備投資と公的支援の組み合わせで作れます。2026年10月以降、最低賃金は順次上がる見込みです。本記事では公的支援4制度の選び分けと、業務改善助成金の申請5ステップを整理します。人手不足対策7つの打ち手の記事で触れた「原資が出ない」悩みへの答えです。

賃上げの前提|2026年度の最低賃金改定で人件費はいくら増えるか

新潟県の引上げ額58円なら、時給1,050円のパート10人が月80時間働く会社で人件費は年約56万円増えます。社会保険料の増加分は別に見込みます。

令和8年度の地域別最低賃金は、2026年9月3日に全都道府県で答申が出そろいました。全国加重平均は1,177円、引上げ額は56円です(厚生労働省の公表)。発効は10月1日から12月2日にかけて順次の見込みで、新潟県は1,108円・10月1日の予定です。現時点は答申の段階で、発効日が変わる可能性も残ります。

地域別最低賃金は、雇用形態を問わず原則としてすべての労働者に適用されます。特定最低賃金や減額特例などの個別の扱いは、確認が必要です。

賃上げの原資を作る3つの道筋|我慢ではなく生産性から

原資は「生産性向上」「雇用管理の見直し」「価格転嫁」の3つから作れます。生産性向上は、受発注のシステム化などで同じ人数から多くの成果を生む道筋です(業務効率化の考え方をまとめた記事)。雇用管理の見直しでは、賃金規定等を整備して賃金を実際に増額改定するなど、要件を満たせば助成の対象となり得ます。価格転嫁も原資の一つで、労務費の転嫁率は50.0%にとどまります(価格交渉促進月間の調査結果・PDF)。

賃上げに使える公的支援4制度の比較|自社はどれに当てはまるか

公的支援は設備投資型・雇用管理型・税制の3系統で、従業員構成と時給水準から候補は絞れます。

業務改善助成金・キャリアアップ助成金・中小企業省力化投資補助金・賃上げ促進税制の4制度を、主な対象・規模の目安・お金の出方・向いている会社で比較した早見表
賃上げに使える公的支援4制度の早見表|お金の出方も比べる(2026年9月時点)

助成率は、助成対象経費について助成額を計算するときの割合です。上限額の範囲内で、審査と実績確認を経て交付額が決まります(原則として後払い)。事業場内最低賃金とは、その事業場で最も低い時給のことです。

たとえば新潟県の事業場で、従業員10人のうち3人が時給1,050円台なら、まず業務改善助成金が候補です。有期雇用が中心で賃金規定を3%以上上げるなら、キャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースも並びます。

中小企業省力化投資補助金(一般型)には、賃上げの基本要件があります。事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上に毎年保つことが条件です(第8回公募要領)。業務改善助成金の対象となる事業場は、申請時点の水準のままでは要件を満たさない場合が多いといえます。引上げ後も要件を維持できるかを、別途ご確認ください。

中小企業向け賃上げ促進税制の対象は、令和8年4月から令和9年3月に開始する事業年度です。設備資金が交付される制度ではなく、法人税等の税額控除です(賃上げ促進税制パンフレット)。

投資先はデジタル化・AI導入補助金の記事と新潟で使える補助金の記事も参考になります。

業務改善助成金の申請5ステップ|令和8年度の締切から逆算する

令和8年度の受付は2026年9月1日に始まりました。締切は、地域別最低賃金の発効日の前日か2026年11月30日のいずれか早い日です(厚生労働省「業務改善助成金」)。

対象事業場は交付要綱(令和8年度)の別表第1で決まります。条件は「令和7年度地域別最低賃金以上、令和8年度地域別最低賃金未満」という帯です。最低賃金を下回っていることが条件ではありません。新潟県なら答申ベースで1,050円以上1,108円未満が対象です。申請時点で改定後の額以上なら申請できない、と公式Q&A(問3)も回答しています。

助成率は、引上げ前の事業場内最低賃金が1,050円未満で4/5、1,050円以上で3/4です。コースは50円・70円・90円の3区分で、上限額は引き上げる人数で決まります。

コース 1人 2〜3人 4〜5人 6〜7人 8人以上
50円 30万円 40万円 70万円 90万円 110万円
70円 40万円 50万円 130万円 180万円 230万円
90円 90万円 150万円 270万円 360万円 450万円

特例1|規模30人未満の上限額特例

事業場規模30人未満の事業者は、1人と2〜3人の区分だけ上限額が上がります。たとえば90円コースは100万円と240万円です。効くのは上限額で、対象経費は変わりません。

特例2|特例事業者の上限額と対象経費

特例事業者とは、事業場内最低賃金が1,050円未満の事業場です。売上高総利益率などが直近6か月平均で前年同期比3%ポイント以上低下した事業者も含みます(交付要領別紙2)。特例事業者が10人以上を引き上げる場合、90円コースで上限は最大600万円です。物価高騰等の要件に該当すれば、パソコンなど端末の新規導入も対象経費になります。

申請の5ステップ

締切から逆算し、次の順で進めます。

  1. 改定額・発効予定日と自社の事業場内最低賃金を並べる
  2. コース・人数・賃上げの実施日を決める
  3. 設備投資の中身を固め、見積書をそろえる
  4. 交付申請を出し、発効日の前日までに賃上げを実施する
  5. 交付決定の後に発注・契約・購入・支払を行い、完了報告を出す

賃上げと設備投資は、別の時系列で進みます。賃金引上げ期間は2026年9月1日から発効日の前日までです。令和8年度リーフレットも、次のように例示しています。「10月1日に新しい地域別最低賃金が発効される場合、発効日の前日(9月30日)までに事業場内最低賃金を引き上げる」。交付決定を待つと、この期限を過ぎるおそれがあります。

一方、設備の発注・契約・購入・支払は交付決定の後です。事業完了期限は交付決定の属する年度の1月31日です。令和8年度分なら2027年1月31日にあたります(厚生労働省「業務改善助成金」)。

業務改善助成金の申請を締切から逆算して進める5ステップの縦フロー図。発効日の前日までの賃上げ実施と、交付決定後の設備導入という2つの期限を含む
業務改善助成金 締切から逆算する申請5ステップ(令和8年度)

業務改善助成金でつまずく5つの落とし穴|要件の読み違いを防ぐ

つまずきは次の5点に集中します。要件の読み違いと、手順の前後関係です。

業務改善助成金の申請前に確認したい5項目のセルフチェックリスト
申請前セルフチェック5項目(業務改善助成金・令和8年度)

とくに多い誤解が「地域別最低賃金との差額が○円以内」という説明です。令和8年度の交付要綱にその書き方はなく、帯として読むのが正しい理解になります。

賃上げ支援のよくある質問6つ

今から申請して間に合いますか

準備が整えば間に合う余地はあります。締切は発効日の前日か2026年11月30日の早い日です。予算の範囲内のため、早く締め切られることもあります。賃上げの原資づくりの無料相談もご利用ください。

設備を買う手元資金がありません

設備の支払は自社が先に行い、助成金は完了報告と実績確認を経た後払いです。期限は2つに分かれます。賃金の引上げは、適用される地域別最低賃金の発効日の前日までです。設備の発注・導入・支払は、交付決定の後から事業完了期限までに行います。両者は別の期限です。順番の設計は実行と定着まで伴走する支援サービスでご相談ください。

審査は厳しいですか

支給を保証できる制度ではありません。審査と予算の範囲があり、不交付事由も定められています。落ちる理由は不採択になりやすい書類の落とし穴の記事にまとめました。

社会保険労務士に頼むべきですか

労務の判断は、社会保険労務士や都道府県労働局への相談が確実です。当社は社会保険労務士事務所ではなく、申請代行も行いません。計画づくりは原資の作り方を整理する無料相談でお受けします。

パート・アルバイトだけの会社でも対象になりますか

引上げの対象労働者は、週所定労働時間20時間以上の雇用保険加入者です(令和8年度リーフレット)。パート・アルバイトでも、週の所定労働時間が20時間以上で雇用保険に加入していれば対象になります。加入状況で判断が分かれるため、詳細は労働局へご確認ください。

賃上げした後に賃金を元に戻せますか

3つに分けてお答えします。第一に、申請書の提出日からさかのぼって6か月以内の賃金引下げは不交付事由です(交付要綱第4条第4項)。第二に、過去に交付を受けた事業場で完了日以後の賃金が定めた額を下回る場合も、将来の申請で不交付事由にあたります。第三に、不利益変更の可否は労働法の問題です。当社では判断できないため、社会保険労務士や労働局にご相談ください。

賃上げの原資づくりから実行まで伴走します

自社がどれに当てはまるかの見極めが壁になります。伴走支援パートナーズは新潟県柏崎市を拠点に、実行と定着まで伴走します。

当社が支援するのは、賃上げの原資づくりに向けた設備投資計画・生産性改善・資金計画の整理です。助成金の法的な可否判断や、申請書の作成・提出の代行は行いません。

賃上げの原資をどう作るかを一緒に整理する無料相談を申し込む

制度の要件・金額・期間は年度や回で変わります。必ず公式資料でご確認ください。

執筆:伴走支援パートナーズ株式会社(経営コンサルティング)/2026年9月4日公開・更新/本記事は一般的な情報提供です。

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